2014年から15年にかけて関係各団体がハイレゾについてその定義やロゴマークをリリースしました。一般的には”CD音質を超えるスペックをハイレゾとすること”が認知されているように思いますが、その定義をよく読むと各団体でその内容が異なります。
JEITA (電子情報技術産業協会)
CD 16bit/44.1kHz or DAT/DVD 16bit/48kHzをCDスペックとして、CDスペックを超えるデジタルオーディオをハイレゾオーディオと定義。また、LPCM換算でサンプリング周波数、量子化bit数のいずれかでもCDスペック未満であればハイレゾ非該当とする。
JAS(日本オーディオ協会)
アナログからデジタルまでの全ての民生用オーディオ再生機器を包含しながら、次の時代を示し現状オーディオの技術的・質的改善を意味する言葉として捉え、アナログ・デジタルに限定しない機器に適用できる言葉として捉える。
アナログ信号では、マイク・アンプ・スピーカー・ヘッドホンの各再録40kHz以上が可能であること。デジタル信号では、フォーマットがFLAC or WAVで、入出力・再生・信号処理・変換において24bit/96kHzが可能であること。また聴感評価を要求する。
DEG, CEA, The Recording Academy and Major Labels
CD音質以上でマスタリングされた音源を録音したフルレンジの音を再現可能なロスレスオーディオとする。追記として、この定義は4つのレコーディングソースのマスタリングを区別し、現在入手可能な最良の音源を録音したものとして記載。これら全ての録音はアーティスト、プロデューサー、エンジニアが当初意図したものとする。
レコーディングソースのマスタリング区分
MQ-P PCMマスター音源 20bit/48 kHz 以上 (例 96/24 or 192/24 等)
MQ-A アナログマスター音源
MQ-C CDマスター (16bit/44.1 kHz 等)
MQ-D DSD/DSFマスター音源 (例 2.8、5.6 MHz 等)
RIAA (The Recording Industry Association of America)
アーティスト、プロデューサー、エンジニアが当初意図した、CD音質以上(20bit/48kHzかそれ以上)にマスタリングされた音源を録音した、フルスペクトラムの音を再現可能なロスレスオーディオ。
この定義は、消費者がクリエイティブなプロセスの中で最高品質に保存されたデジタルフォーマットを受け取ることを保証する。
ハイレゾのロゴは、 アメリカ、カナダ、ヨーロッパのダウンロード&ストリーミング販売において、販売者からこれらのハイレゾ・デジタルミュージックを購入することを確立する。ロゴは現下のところ民生向け機器にもライセンスしたJAS(日本オーディオ協会)のロゴも補完する。
これらの録音の特徴について、できる限り多くの情報を顧客に提示するために、ロゴはデジタルフォーマットの名称と解像度を添えること。その使用においては、デジタル音源の販売者やレコードレーベルは、広告や販促素材としてロゴを使用できる。
(2016年拡張された定義)
MQAおよびMPEG 4 Audio SLSを含む、より効率的な方法で消費者に高音質の音楽ファイルのストリーミングをサポートすることができるデータパッキング技術・サービスにおいて認定されたはものは、Hi-Res Musicロゴマークを表示することができる。
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日米4団体の「ハイレゾの定義」を要約してみました。The Recording Academyはグラミー賞の主催団体、RIAAはゴールドディスクの認定団体です。どこも概ねCDスペックを超えるデジタルオーディオがハイレゾオーディオであるという点は一致しています。裏を返せば、それ以外は定義に幅があるということです。(正確な記述が必要な場合はリンク先をご参照下さい。)
例えば、JEITAはあくまでもデジタルオーディオとしてのハイレゾのスペックを論じ、LCPM換算(サンプリング周波数と量子化bit数)という定量的評価を示しています。ただDSDフォーマットやリミックス・リマスタリングした音源の扱いの記述はありません。
JASのハイレゾの定義とは、デジタルオーディオではなく民生用機器における性能としての定義づけです。またアナログ信号をもハイレゾに含み、聴覚評価という定性的評価を示していることが特徴でしょうか。
DEGはデジタルフォーマットの定義づけですが、レコーディングソースのマスタリング区分を明示したことが特徴でしょうか。後に続くRIAAも同様ですが、アーティスト、プロデューサー、エンジニアが当初意図した音源(英文ではoriginal intended)という一文が印象的です。
RIAAはDEGに準じていますが、ロゴの扱いについて、日本では2つのハイレゾロゴマークが使われていますが、RIAAは独自にロゴマークをデザインし、RIAAのハイレゾの定義はAcoustic Sounds Super HiRez、HD Tracks、Naxosなどの北米・欧州マーケットから支持を受け入れられつつあると論じています。
2016年7月からRIAAではMQA, MPEG 4 Audio SLSとストリーミングサービスについてハイレゾの定義を拡張しました。これら技術・サービスが認定されればハイレゾのロゴマークを使用でき、解像度がハイレゾの定義の必要最低基準を下回ればユーザーはそれを認識できるとしています。
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どうも日本の定義だけでハイレゾを捉えると違和感がある。それは当然のことで、JEITAにはサンプリング周波数と量子化ビット数以外の定量的評価項目がなく、故にDSDフォーマットやリマスタリングの扱いについての言及がない。その後にハイレゾの定義にコミットしてきたJASは、対象は機器であるとしてハードウェア側の音作りを「聴感」として定性的評価を含めた定義を示しましたが、JEITAの定義を補足することはありませんでした。
欧米では、同時期に定義を作成していましたが、ハイレゾオーディオの定義=デジタルフォーマットのスペックという定量的評価を軸に、マスタリングを音源別に区分し、製作者のオリジナルの意図を尊重するよう明示。またそれら音源について顧客への情報提供をレコードレーベルや販売者に課しています。つまりハイレゾの定量的評価項目は限定的なので、顧客がより合理的で客観的な判断ができるよう、努めていると言えます。
これでは欧米のハイレゾの定義の方が妥当だと評価せざるを得ません。それどころか日本では、RIAAに該当する関係各団体から定義に関するコミッットメントがありません。これがハイレゾ先進国と後進国の質的な違いの現実なのかもしれません。
つづきは、
コラム 音楽メディアとフォーマット・ハイレゾの定義 Part2です。
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