ダイナミックレンジが広くクリアーな素質を持つカートリッジでトレースしたアナログサウンドを聴いていると、普段ネットワークプレーヤーでデジタルソースを聴いている時と、さほど変わらない音質の印象を持ちます。
デジタルのアナログへのアプローチ
例えば、Linn DSはデジタル音源に機器内部で35bit/198-352.8kHzのアルゴリズム処理を施していますが、このDSPとDAプロセスがアナログ再生のようなサウンドメイキングを得ておりLinnサウンドがさほど違和感なくアナログ再生に近いと感じる所以なんだと思います。
同様の仕様は他メーカーも志向しており、最近のKORGやSONYのDSDコンバートの流れもPCM/DXD, DSD/SACD等メディアフォーマットの違いはあるにせよ、概ね自然な音と言われているアナログ波形へのアプローチ、概して言えばハードウェアでのプリセットフィルター、言わば音質のチューンアップです。
プリセット・フィルターと音づくり
ハードウェア側でのプリセットフィルターとは、古くはコンデンサーやトランス類の高品質化だけではなく、さらにCDプレーヤーの時代から現在に至までAD/DAコンバート前後の回路にメーカー独自のチューンアップを施すことによりサウンドメイキングが決まるという、アナログ・デジタル時代の共通項が存在しています。
さらにプリセットフィルターは可変・固定を選択でき、何もこれさえも新しい技術ではありませんが、今日では言葉のセレクトが変わり”ネイティブ再生・ダイレクト再生”というようなハードウェア・メーカー側も選択肢を付加し、デジタルフォーマットのプリセットフィルターと両方でのサウンドメイキングをユーザー側が楽しめるように機能化しています。
ソフトウェア・メーカー側は、録音・製作音源のクオリティを最大化するために、蓄積した経験や高度のテクニックや感覚というリソースを活かしながら、その時の最新鋭のハードウェアで録音・編集プロセスにチューンアップを施すことで、その音源処理がレコード会社なりスタジオなり技術者なりのプリセットフィルターとしてリマスタリングやハイレゾというパッケージに込められています。
プリセットフィルター、音質のチューンアップ、サウンドメイキングと言葉を並べてみましたが、要は「音づくり」です。演奏ー録音ー編集ー包装ー再生というプロセスの中で、それぞれの属性で音づくりが行われているわけですが、レコード記録の時代からデジタルフォーマットの今日まで、それぞれの属性でそこに同様の「音づくり」があることは何ら変わりません。
オーディオファイルの要求
その中でオーディオとは、一般的には再生プロセスでの「音づくり」のことを指していますが、ハードウェアの高音質化を一定の範囲内で楽しむ趣味性の高いオーディオが今日のデジタルメディアの時代に入り録音編集プロセスを含むデジタルフォーマットをアマチュアでも容易に接する機会が増えたことが、オーディオ属性での高音質化にソフトウェアが寄与することへの関心を拡げ続けています。
関心とは、つまり”手に入れたいという要求”ですが”ネイティブ再生・ダイレクト再生”という言葉に内包する意味としては、例えばDSDフォーマットを単に再生するというだけではなく録音編集プロセスへも関与したいという、アナログ時代にはプロフェッショナルに委ねていた行為を”情報として手に入れたい”という意味での関心なんだと思います。
これは実に発想が”オタク的”なんですが、オーディオファイルとはそもそも「広義の音づくりのオタクである」と開き直れば理解できるような気にもなります。レコード時代から録音時期や場所をサウンドと共に頭にインプットしていたということは珍しくないことですが、その延長線上にある行為と要素は、案外制作者とリスナーの共通項であったりするものです。
この要求に応えるというよりは、高音質なパッケージをリスナーに届けるという制作者や音楽家の意図も、このデジタルフォーマットの時代には可能になりました。そもそもPCオーディオという概念は、演奏ー録音ー編集ー包装ー再生という以前から制作者側が使っていたデジタルフローをここ数年でコンシューマー・オーディオに持ち込んだものですが、そのデジタルフォマットをリスナーに届ける便益は制作者の方がより理解していることと推察しています。
制作者とリスナーの便益
元来、音楽と音楽産業の裾野は幅広いわけですから、演奏家と作曲家の技量の見せ所は違うはずです。弦を爪弾く最高のテクニック、会場のリアリティをあますことなく届けたいという欲求と、溢れるばかりの弾け飛ぶ音色と音波の乗数を届けたいという欲求は、それぞれの音楽家の嗜好そのものです。その意向とは裏腹に、リスナー側が勝手にオタク的にコアな部分だけを取り出して過要求しても、必ずしも制作者の意図とリスナーの期待が合致するとは限りません。
PCM/DXDやDSDはデジタルフォーマットでのアナログプレイバックフローの”良いとこどり”を意図した技術進化の過程なんだと思いますが、その技術はいずれアナログサウンドに近づくと言われています。それはそれとして、DSDという言葉だけが高音質化の一人歩きしたり、ハイレゾだから高音質なんだという誤解を生じさせていることが、結果的に音楽家・制作者・リスナーの便益を計らずに利益追及がメインフレームに存在しているように見えてしょうがない。そんな便益が絡む時代なんですなどと肯定する気には到底なれません。
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part1 - DSDとリスナーの便益
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part2 - LINNのDSD批判
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part3 - DSD懐疑論
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part4 - DSDの普及コスト
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part5 - DSD Myth・GrimmAudioのホワイトペーパー
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part6 - 神話と真実・Myth vs Truth
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コラム 音楽メディアとフォーマット・DSD Part7 - SACDの現状と未来
いい音ってなんでしょうね?いくらデジタル化が進んでも私たちの感覚自体はアナログだから、数値的なものが突出しているだけでは、いい音にはならないでしょうね。故に、DSDかPCMかレコードか???なんて事は、本題ではないように思えます。では本題はなにか?・・・きっと感性を多く刺激するものなのでしょうね。
返信削除数値的な基準はアナログ録音の無垢な状態での記録なんだと思うんですが、再生すると同時に劣化することがアーカイブズとしてのアナログの性質で、その代替をデジタルが行う、そのプロセスがの技術進化なんですよね。DSDもPCMもレコードに波形を近づけることが当面の目標ではあるに違いないと思うのですが、それをして日々劣化し続けているレコードの音がいいと言い切るには、あまりにもラフな言い方だとも思います。
返信削除本題は、デジタルソリューションの今・・・(笑)ごめんなさい。そういう見方もあるんですが、一応テーマの範囲内でのコラムなもので・・・。